可逆変化と平衡移動
可逆反応
反応物⇔生成物、どちらの方向にも進む反応を可逆反応と呼ぶ。反応物→生成物を正反応、生成物→反応物を逆反応と呼ぶ。
化学平衡
正反応と逆反応の速さが等しくなったとき、見かけ上は反応の進行が停止しているかのように見える。この状態を化学平衡と呼ぶ。反応物と生成物が共存している。
平衡移動
平衡状態は微妙なバランスで保っているため、濃度、圧力、温度を変化させるとバランスが崩れる。結果、変化の影響を和らげる向きに反応が進み、最終的に新しい平衡状態を形成する。これをルシャトリエの原理と呼ぶ。 次の化学式で具体的に考えてみたい。
濃度の変化
NH3を加える:NH3が分解するため←の向きに平衡移動する。
NH3を取り除く:NH3を生成するため→の向きに平衡移動する。
圧力
圧力を加える(体積減少):気体分子が減少するため→の向きに平衡移動する。
圧力を減少させる(体積増加):気体分子が増加するため←の向きに平衡移動する。
温度
加熱する:温度が低下する吸熱反応の←の向きに平衡移動する。
冷却する :温度が上昇する発熱反応の→の向きに平衡移動する。
平衡の量的関係
反応量
反応量とは、化学反応による物質量(mol)の変化のことを指す。
N2O4 ⇔2NO2
上記の式について、反応物の反応量をxとすると、次のような関係になる。
化学反応前
- 反応物のはじめの物質量をn molとする。
化学反応中
- 反応物の変化量:-x mol
- 生成物の物質量:2x mol(化学反応式の係数が2のため)。
平衡時(見かけ上の化学反応が停止した時)
- 反応物の物質量:n-x mol(はじめの物質量nから変化量xを引く)
- 生成物の物質量:2x mol
解離度α
解離度とは、「解離した物質の物質量 ÷ はじめの物質の物質量」で示されるどれくらい反応物が解離したかの割合である。例えば、解離した物質が1mol、はじめの物質量が2molとすると、解離度a=0.5となる。
解離は、錯体や分子および塩などが分離または分裂し、より小さい分子や、イオンもしくはラジカルを生じる一般的な過程である。なお、解離反応は多くの場合において可逆反応である。
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N2O4⇔2NO2
上記の式について、解離度aは下記のようになる。
化学反応前
- 反応物のはじめの物質量をn molとする。
化学反応中
- 反応物の変化量:-nα mol(はじめの物質量nに解離した割合を掛ける)
- 生成物の物質量:2nα mol(化学反応式の係数が2のため)。
平衡時(見かけ上の化学反応が停止した時)
- 反応物の物質量:n(1-α) mol(はじめの物質量nに解離していない割合(1-a)を掛ける)
- 生成物の物質量:2nα mol
化学平衡の法則-平衡定数K-
化学平衡の法則
下の化学反応のような平衡状態では平衡定数K(Kcとも書く)と圧平衡定数Kpの関係式が成り立つことが知られている。
平衡定数K
平衡定数Kとは、化学反応の平衡状態を、物質の存在比で表したものである。上記の式aA + bB ⇔ cC + dDが成り立つ場合、平衡定数Kは下の式で求められる。温度一定の平衡状態においてKは常に一定の値を示す。この法則を質量作用の法則と呼ぶ。
- [ ]は平衡時のそれぞれの物質(A、B、C、D)のモル濃度の値が入る。
- a、b、c、dは化学反応式の係数が入る。
- 発熱反応では高温ほどKの値は小さくなり、吸熱反応では高温ほどKの値は大きくなる。これはルシャトリエの原理と呼ばれる。
質量作用の法則の求め方
ノルウェーのグルベルグとワーゲは、H2 + I2 ⇔ 2HIが平衡状態になったとき、正反応と逆反応の反応速度が等しいことを発見し、平衡定数の式を導きだした。
v1 = k1[H2][I2 ]
v2 = k2[HI]2
平衡状態の時、v1 = v2なので次のようになる。
k1[H2][I2 ]= k2[HI]2
よって、k1/k2の値をKとすると、次の式が成り立つ。
しかし、普通、反応速度式の濃度の次数と、化学反応式の係数は一致しないことが知られている。この反応はたまたま一致しただけであって、平衡定数の式を導き出す正当な根拠とはなり得ない。
こののち、ファントホッフは熱力学から質量作用の法則を導きだされることを証明した。しかし、その内容については、高校化学では扱わない。
ルシャトリエの原理とは
ルシャトリエの原理とは、平衡状態にある反応系において、状態変数(温度、圧力(全圧)、濃度)を変化させると、その変化を相殺する方向へ平衡は移動するという法則である。体積の変化に関しては、「体積の増加」は「圧力の減少」、「体積の減少」は「圧力の増加」と置き換えて理解すると良い。
つまり、反応温度を上げた場合は反応熱を吸収して反応温度を下げる方向へ移動し、 反応温度を下げた場合は反応熱を発生させて反応温度を上げる方向へ移動する。例えば、以下のような発熱反応の場合、温度を上昇させると、反応は左(吸熱反応)へ傾くのである。
H2+I2=2HI+92kJ
ちなみに、圧力の変化に関しては、周囲との熱の出入りが行えないような状態では、反応系の温度が高くなる(もしくは低くなる)。しかし、実際に問題等で問われている状況は、「温度変化させずに圧力を変化させる」という状況であり、十分に周囲と熱の出入りが可能な状況を想定している。圧力を加えたからと言って、温度の増加まで考える必要はない。
例題①
水素4.0molとヨウ素4.0molを10Lの容器に入れて一定温度に保つと、下の式のような化学反応が起こり、平衡状態に達した。平衡状態時にはヨウ化水素が5mol生じていた。この反応の平衡定数を求めよ。
H2 + I2 ⇔ 2HI
ヨウ化水素が5mol生じるためには、H2が2.5mol、I2が2.5mol必要である。よって、平衡時に残っているH2は下のようになる。
4mol – 2.5mol =1.5mol
また、mol濃度は、100L中に1.5molなので下のようになる。
1.5mol ÷ 10L = 0.15mol/L
I2のモル濃度も同様に、(4mol – 2.5mol) ÷ 10L = 0.15mol/L
ヨウ化水素HIのモル濃度は、5.0mol ÷ 10L = 0.50mol/L
これを平衡定数Kを求める式に代入すると、
K = (0.5)2÷(0.15×0.15)= 11
例題②
水素1molとヨウ素1molが入った容器10Lが平衡状態に達した時、ヨウ化水素は何mol生じるか。なお、上記問題とは温度が異るため、平衡定数K=25とする。
平衡定数を求める式を利用して、答えを求める。
ヨウ化水素をXmolとすると、上の式は次のように展開できる。
K=25なので、代入すると、
全体が二乗なので、取り外すと、
両辺に(1.0-X/2)を掛けて計算すると、
X=1.4
固体が関与する場合の平衡定数
固体はモル濃度が変化せず、平衡に影響を与えないので、平衡定数の計算には含める必要がない。
固体のモル濃度とは、物質量を自身の体積で割ったものである。固体にはびっしりと原子(分子)が詰まっており、反応が進んでも、温度や圧力を加えても、単位体積あたりの物質量は変化しない。そのため、個体のモル濃度は一定値と考える。
例えば、以下のような反応系を考えてみよう。
例: C(固) + CO2(気) ⇔ 2CO2(気)
炭素(固体)の量を、2倍に増やしても、炭素(固体)の濃度は一定のままである(反応容器の体積Vに対してあまり多量に加えないことを前提とする)。そのため、上記の式では、C(固)は式に含めないので、平衡定数は次のようになる。
平衡に無関係な物質を加えるとどうなるか
例えば、窒素と水素が反応しアンモニアが生成される反応系に、体積一定でアルゴンArを加えた場合を考えてみたい。
N2 + 3H2 ⇔ 2NH3
アルゴンを加えたとしても、それぞれの物質の物質量が変化するわけではない。つまり、体積一定で物質量の変化がないのであるから、N2、H2、NH3いずれの濃度も変化しない。よって平衡移動は起こらない。
圧力の点から考えても同様である。体積一定で、アルゴンを加えると、加えた分だけ全圧は増えるが、N2、H2、NH3いずれの分圧は変化しない。よって平衡移動は起こらない。
まとめると、体積一定で、平衡に無関係な物質を入れても、平衡移動は起こらないと言える。
もしこれが問題文などで「アルゴンを加えて全圧一定で」と問われるならば、注意が必要である。アルゴンを加えて全圧が一定であるためには、体積が増加しなければならない。つまり、N2、H2、NH3の分圧は減少し、平衡移動が起こる。その移動は、機体の分子数が増加する(圧力減少が緩和される)平衡移動(左向き)である。
触媒を加えた場合の平衡移動
触媒とは、それ自身は変化せずに反応系の活性化エネルギーを減少させるような物質のことを指す。
触媒は、正反応と逆反応を同じ割合で増加させるので、平衡定数は変化しない。触媒を加えるということは、「より早く非平衡状態から平衡状態に達する」という意味だと理解しておけば良いだろう。
化学平衡の法則-圧平衡定数Kp-
圧平衡定数Kp
下の化学反応のような平衡状態では平衡定数Kと圧平衡定数Kpの関係式が成り立つことが知られている。
圧平衡定数Kpとは、気体反応における各成分気体の分圧を、PA、PB、PC、PDとした時に、一定温度で求められる定数のことである。
- PA、PB、PC、PDにはそれぞれの気体の分圧が入る。
- a、b、c、dは化学反応式の係数が入る。
気体反応の場合には、濃度よりも圧力の方が測定しやすいため、Kpが使われることが多い。
圧平衡定数の式の求め方
平衡定数を圧平衡定数に変換するためには、気体の状態方程式(PV = nRT)を使う。物質量n ÷ 体積V = モル濃度であるから、式を変換すると次のようになる。
P = n/V × RT
n/V = P/RT
これをそれぞれの気体の分圧ごとに代入していく。例えば、[A]は、PA/RTとなる。RTは定数(温度は一定)であるためまとめると、次のような式になる。
RT(c+d)-(a+d)は定数であるため、省略することができる。
つまり、Kpとは、平衡定数K ÷ RT(c+d)-(a+d)であると言える。RTは定数であるため、Kpも定数となるのである。
例題
N2O4は放置しておくと、可逆反応が起こりNO2へと解離する。その反応は、下の化学反応式で示される。
N2O4 ⇔ 2NO2
N2O4をある容器に入れて100℃に保っているとNO2へと解離が起こり、平衡状態に達した。平衡状態における圧力(全圧)を1.0×105Pa、100℃における圧平衡定数Kpを2.0×105Paとした時、N2O4の解離度αを求めよ。
解き方
反応前のN2O4の物質量をnとし、解離度をαとする。
平衡時のN2O4の物質量は、はじめの物質量nに解離していない割合(1-a)を掛けることによって求まるので、n(1-α) molとなる。
平衡時のNO2の物質量は、N2O4が1molに対してNO2は2mol生成されるので、2nα molとなる。
各気体の分圧は全圧にモル分率を掛けたものに等しい。全体の気体の物質量は、n(1-α) + 2nα = n + nα = n(1+α)である。よって、各気体の分圧は次の式で求まる。
圧平衡定数の式は次のように立てられる。
それぞれの分圧の値を当てはめていくと、
α=の形に変換すると、
全圧は問題文より1.0×105Pa、圧平衡定数Kpは問題文より2.0×105Paなので、それぞれ代入し、関数電卓で計算する。
X = 0.58
平衡定数Kと圧平衡定数Kpの関係
KpとKの関係
ある気体の反応において、平衡状態では次の式が成り立つ。
この時、圧平衡定数Kpと平衡定数Kは次の関係式が成立することが知られている。
平衡定数Kの式から圧平衡定数Kpの式を求める
ある気体Aにのみ着目する。状態方程式により、 次の式が得られる。
これを変換すると、次の式が得られる(物質量を体積で割るとモル濃度になる)。
さらに式を変換すると、
これを平衡定数の式(下図)に代入する。同様に他の気体B、C、Dについても代入する。
平衡状態時は温度が一定であるのが原則なので、Tは一定値となる。また、Rは気体定数のために一定となる。(a+b)-(c+d)の部分も化学反応式の係数なので一定の数である。つまり、×(RT)(a+b)-(c+d)は一定値となる。そして、×(RT)(a+b)-(c+d)を定数としてとっぱらったものが圧平衡定数である。
つまり、平衡定数は圧平衡定数に(RT)(a+b)-(c+d)を掛けたものであることがわかる。