溶けるとは?
極性溶媒と無極性溶媒
溶液は極性(物質内での電気的偏り)の有無によって分類することができる。極性が液体を極性溶媒と呼ぶ。極性がない液体を無極性溶媒と呼ぶ。
極性溶媒
水が代表的な例として挙げられる。多くのイオン結合性物質や、極性分子を溶かすことができる。
無極性溶媒
ベンゼン、ヘキサンなどが代表的な例として挙げられる。ヨウ素などの無極性分子を溶かすことができる。
水和
水分子が溶質と静電気的な力や水素結合によって結合することを水和と呼ぶ。「水に溶ける」という現象は言い換えると、水分子に囲まれるということである。
イオン結晶と水和
イオン結晶は水分子が静電気的な力で結合し電離する(溶解する)。 なお、イオン結合が非常に強い物質(フッ化ナトリウムなど)は水分子の力では引き離すことができず、溶かすことはできない。
極性分子と水和
アルコールなどはヒドロキシル基(-OH)の電子に偏りがあり、水分子と水素結合を結ぶことができる。エタノールと水は極めて相性が良く、いくらでも溶かすことができる。
実験で確かめよう
準備
それぞれの薬品を少量準備する。
溶媒:水(極性溶媒)、灯油(無極性溶媒)、メタノール (水よりは弱い極性を持つ溶媒)
溶質:NaCl(イオン結合性物質)、ヨウ素I2(無極性分子)
実験方法
次の組み合わせで溶質が溶媒に溶けるかどうかを確認する。
水+NaCl
灯油+NaCl
メタノール+NaCl
水+ヨウ素
灯油+ヨウ素
メタノール+ヨウ素
水+メタノール
水+油
ヨウ素+メタノール+水
ヨウ素+メタノール+油
結論
極性+無極性は基本的に混ざり合わない。
メタノールの極性は弱いので、NaClを溶かすことはできない。
メタノールは中間的性質を持つので、ヨウ素を水に溶かすための仲介役となる(イソジン)。
メタノールは完全に無極性ではないので、メタノールに溶けたヨウ素は灯油に吸い取られる(抽出)。
飽和溶液と溶解度
飽和溶液
これ以上溶けることができなくなった溶液をと呼ぶ。飽和溶液の中に結晶が生じている場合、見かけ上は結晶の大きさは変化しないが、粒子レベルでは溶け出したり析出したりと繰り返している。このような実際は粒子が動いているのにも関わらず、その粒子の出入りの量が等しい状態を溶解平衡と呼ぶ。
溶解度
固体の溶解度
溶媒100gに限界まで溶かすことができる溶質の質量gを、その固体の溶解度と呼ぶ。温度が高くなると液粒子が活発に動き、溶質を多く溶かすことができるようになるため溶解度は大きくなる。結晶水を含む物質は、無水物の質量gに直して計算する。
気体の溶解度
1013hPaの状態で気体が溶媒1mlに溶解することができるその気体の体積mlを気体の溶解度と呼ぶ。温度が高くなるほど分子の動き活発となって気体分子が飛び出るので溶解度は小さくなる。
ヘンリーの法則
気体の圧力が大きくなればなるほど、たくさんの気体分子が溶媒に溶けることができるという法則。混合気体では、各気体の分圧によって溶けやすさが決定する。
実験で確かめよう
準備
試験官、ビーカー、温度計、水10ml、ミョウバン7g
実験方法
- 試験官に水10mlを入れ、ミョウバンを1g入れて、温度計でかき混ぜる。
- 溶けない場合は、湯煎にして温める。
- 完全に溶けきったら温度を記録し、火を止め、 ミョウバンを1gずつ加えていく。
- 溶けない場合には、火を付けて湯煎の温度を上げる。 完全に溶けきった温度を記録する。
- ミョウバンが7g完全に溶けるまで実験を続ける。
- 実験が終わったら、冷水に浸してついでに結晶が析出する様子を見る。
結論
希薄溶液の現象(蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下)
希薄溶液
希薄溶液とは十分に濃度の薄い溶液のことを指す。溶質の種類によらず、蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下などの現象が見られる。
蒸気圧降下
NaClなどの不揮発性の電解質を溶かした溶液の蒸気圧は、何も溶かしていない溶液の蒸気圧よりも低くなることが知られている。この現象を蒸気圧低下と呼び、溶液の濃度に比例する。
蒸気圧
液体分子が蒸発しようとする時に空気を押し上げる力。水は0.02気圧ほどある。油などは蒸気圧が非常に低いので蒸発しにくい。
沸点上昇
何かが溶けている液体(溶液)は、何も溶けていない液体に比べ沸点が上昇する。このことを沸点上昇と呼ぶ。上昇率は溶液の質量モル濃度に比例する。
左:純水、右:溶液のイメージ
凝固点降下
何かが溶けている液体(溶液)は、何も溶けていない液体に比べ固体になる温度が降下する。この現象を凝固点降下と呼ぶ。降下率は溶液の質量モル濃度に比例する。
溶質の分子量の求め方
沸点上昇度(どれくらい沸点が上昇したか)または凝固点降下度(どれくらい凝固点が降下したか)が溶液の質量モル濃度に比例する性質を利用し、 溶質の分子量を求めることができる。
沸点上昇度(⊿t) はモル沸点上昇k(K・kg/mol)に質量モル濃度m(mol/kg)を掛けることによって求めることができる。
質量モル濃度mは、溶質の質量w(g)/溶質の分子量M×1000/溶媒の質量W(g)で求めることができる。これを上記の式に代入し、M=の形に直すと次のようになる。
M = 1000kw / W・Δt
モル沸点上昇
物質1モルを溶質として、溶媒1000グラムに溶かした溶液の沸点の上昇度。溶質の種類によらず、溶媒に固有の定数となる。
希薄溶液の現象(浸透圧、電解質溶液)
浸透圧
溶質の濃度が異なる溶液が半透膜を挟んで存在するとき、 濃度の低い方から高い方へ溶媒が移動する現象が起こる。これを浸透と呼ぶ。また、浸透(溶媒の移動)を抑えるために必要な圧力を浸透圧と呼ぶ。
ファントホッフの法則
浸透圧Π(パイ) 単位Paはモル濃度c(mol/L)と絶対温度T(K)に比例することが知られている。溶媒や溶質の種類には寄らない。また、この時の比例定数は気体定数Rと一致することが知られている。つまり、浸透圧は次のように表すことができる。
Π= cRT
(c=モル濃度(mol/L)、R=気体定数 8.3×103(Pa・L/K・mol)、T=絶対温度)
c = n(物質量mol) / V(体積L)なので、書き直すと次のようになる。
Π = n/V × RT
ΠV = nRT
電解質溶液
溶質が電解質(溶液中で電離する物質)である場合、電離して粒子数が増加するため、同じ濃度の非電解質溶液よりも沸点上昇度が大きくなる。また、凝固点降下度、浸透圧も同様に大きくなる。
コロイド・コロイド溶液
コロイド
コロイドとはコロイド粒子が分散したもののことを指す。溶液になるものをコロイド溶液(ゾル)、流動性を失って固体状になったものをゲルと呼ぶ。また、コロイド粒子を分散させている物質を分散媒と呼び、分散しているコロイド粒子自体を分散質とも呼ぶ。また、コロイド溶液でない溶液を真の溶液と呼ぶ。
ゾル
流動性を持ったコロイド。
ゲル
流動性を失ったコロイド。
コロイド粒子
1~100nmの大きさの大きめの粒子で、溶液中では沈殿したりせずに均一に溶ける。しかし、大きいがために通常の溶液とは異なる性質を付与させる。牛乳などに含まれるタンパク質や泥水(沈殿しないもの)が含まれる。
コロイドの種類
分子コロイド
高分子1個がコロイド粒子となって分散しているもの。デンプン・タンパク質等がある。
分散コロイド
固体の小さい粒子がコロイド粒子となって分散しているもの。硫黄、水酸化鉄等がある。
ミセルコロイド
界面活性税などがミセルを形成し、分散しているもの。セッケン、合成洗剤等がある。
コロイドの種類(親水・疎水・保護)
コロイドの種類
コロイドの性質から疎水コロイド、親水コロイド、保護コロイドの3つの種類に分類することができる。疎水コロイドは少量の電解質を加えると凝析し、親水コロイドは多量の電解質で塩析する。
疎水コロイド
少量の電解質を加えると、沈殿するコロイド溶液である。表面に電荷をもつために互いに静電反発していたコロイド粒子同士も、電解質(塩溶液)のイオンにより表面の電荷がうちけされてしまうと、沈殿をはじめる。このような実験手法を凝析と呼ぶ。水酸化鉄(Ⅲ)等がある。
親水コロイド
多量の電解質を加えて沈殿させることができるコロイド溶液である。このような実験手法を塩析と呼ぶ。デンプン水溶液・タンパク質水溶液等がある。
保護コロイド
疎水コロイドを安定化させるために加える親水コロイドである。墨守に含まれる炭素は疎水コロイドであるが、ニカワ(親水コロイド、ゼラチンのこと)を加える事によって沈殿を防いでいる。
コロイドの性質
チンダル現象
コロイド溶液に光を当てると、光の通路がよく見える現象。粒子の小さい真の溶液では起こらない。
ブラウン運動
コロイド粒子が分散媒分子と衝突して生じる不規則な運動。顕微鏡で観察することができる。
透析
半透膜を用いて、コロイド溶液から小さな分子等を取り除く操作。人工透析は、血液(コロイド溶液)から尿素等を取り除いている。
凝析
少量の電解質を加えて疎水コロイドを沈殿させる現象。
塩析
多量の電解質を加えて親水コロイドを沈殿させる現象。
電気泳動
直流電圧をかけて、極性を持つコロイド粒子をどちらかの極に移動させる方法。