水のイオン積
水の電離
水は極わずかにH+とOH-に電離している。
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水のイオン積
H+の濃度と、OH-の濃度を掛けたものは1.0×10-14(mol/L)2であり、温度が一定ならばこの値は変化しない。
なぜ水のイオン積はどのような水溶液でも一定なのか
水のイオン積の値はどのような水溶液(酸や塩基)であっても変わらない。例えば、水に酸を加えると、右辺のH+が増加するので、ルシャトリエの原理により反応系は変化を減らす方向に進むので、下の反応では左向きに傾く。
平衡定数は、温度によってのみ変化する定数であるため、H+の濃度が大きくなっても、反応が左向きに傾くとH+とOH-の濃度は減少する。結果として、分子も分母も変化し、Kの値は一定となる。これを質量作用の法則と呼ぶ。平衡定数は濃度や圧力では変化せず、温度によってのみ変化するということがとても重要。
水においては殆ど電離しないため(1000万分子中1個)、H2O濃度はほぼ一定(定数)であると考えて良い。式から除外(左辺に移動)すると、定数である水のイオン積Kwが得られる。
水素イオン濃度Kw
酸の強さを示すpH
pHとはH+の濃度がどれくらいあるか0~14の数字で示した値である。値が低ければ低いほど、H+の濃度は高く、酸性が強い。pH試験紙ではpHによって色合いが変化する
pHの求め方
pHは以下の式で求めることができる。
何故logなのか?
log10とは、10の何乗であるかという意味である。 なぜこんなものを使うかというと、視覚的に分かり易いからである。それ以上の理由はない。水素イオン濃度は極微量のため、0.00000000000001mol/Lなんて値も日常的に使われる。これをそのまま書くのは大変なので、まずは指数にする。
0.00000000000001mol/L = 10-13 mol/L
わざわざ10の何乗という形にするのも面倒なので、logで示すとさらに簡単になる。
log10 10-13 mol/L = -13
値にマイナスがつくのも不自然なので、全体に-をかけると次の式となる。
– log10 10-13 mol/L = 13
このようにすると、見やすく理解し易い。
また、水素イオンの濃度が10の何乗というような数ではない場合(b×10-a mol/L)は、通常通り-log10で求めればよいので、次の式のようになる。
例題
解き方
よって、pH = 2となる。
水のイオン積とpH
H+の濃度と、OH-の濃度を掛けたものは1.0×10-14(mol/L)2であり、これを水のイオン積と呼ぶ。温度が一定ならばこの値は変化しない。これを利用して、OH-の濃度からpHを求めることができる。
例題
[OH-] = 1.0 × 10-2 の溶液がある。pHを求めよ。
解き方
水のイオン積は下の式で求めることができるので代入すると、
[H+]×1.0 × 10-2 = 1.0×10-14(mol/L)2
[H+] = 1.0×10-12 mol/L
電離平衡
電離平衡とは
電解質(水溶液中で電離する物質)では、電離していない電解質と電離で生じたイオンとの間に 次のような平衡状態が生じている。これを電離平衡と呼ぶ。
電離定数
電離していない電解質と電離で生じたイオンの濃度を用いて平衡定数を求めたものを電離定数と呼ぶ。平衡定数と異なるのは、電離していない電解質と電離で生じたイオンにのみ注目するという点である。
上記の平衡反応においては電離度が極めて低いため、H2Oの増減はほぼない。そのため(定数となるため)、平衡定数に組み入れることができる。よって、電離定数Kbは次のようになる(酸の時はKa、塩基の時はKb)となる。
弱塩基(弱酸)の電離定数と電離度・イオン濃度
弱塩基・弱酸は殆ど電離しておらず、電離度が極めて低い。その性質を利用して、電離度やイオン濃度を求めることができる。
電離平衡を求める式は以下のようになる。
NH3の濃度をc mol/Lとし、電離度をαとすると、平衡時のNH3の濃度はc×(1-α)となり、NH4+の濃度はc×α、OH-の濃度はc×αとなる。電離定数を求める式に代入すると次のようになる。
ここで、電離度αは極めて小さいので、無視できる範囲である。つまり、1-α = 1である。よって、以下のようになる。
また、変形すると電離度αを求めることができる。
なぜ1 – α(電離度) = 1なのか
実際に1 – α = 1とせずに計算してみるとどれだけの差が生じるのだろうか。例えば、0.030(mol/L)の酢酸の電離度を0.030として電離定数を求めてみよう。
Ka = (cα)2 / c(1-α) = 2.78 × 10-5 = 2.8 × 10-5
Ka = cα2 = 2.7 × 10-5
下一桁が変化したが、これを極僅かな差と見るか、大きな差と見るかが重要である。通常の化学の量的関係ならば「大きさ差」として処理するだろうが、平衡においては極僅かな差として処理する。そのため、1 – α = 1と見なして良いのである。
弱酸・弱塩基の電離度は、濃度が低くなればなるほど増加することが知られている。電離度が大きくなりすぎると、1 – α = 1とは見なせなくなり、計算式に組み込まなければならない。
電離定数とイオン濃度
OH-のイオン濃度は、c×αによって求められるので、上記の式α=√Kb/cを変形すると次の式が得られる。
例題
0.010mol/Lの酢酸の電離度αと水素イオン濃度を求めよ。酢酸の電離定数を1.0×10-5 mol/Lとし、αは1に比べて非常に小さいものとする。
K = cα2なので、α = √K/cである。代入すると、
α = 0.032
また、水素イオン濃度はcαなので、
cα = 3.2 × 10-4 mol/L
塩の加水分解-加水分解定数Kh-
塩の加水分解
塩の水溶液が必ずしも中性でないのは、塩が水と反応(加水分解)してしまうことによる。
弱酸と強塩基の塩
例えば、酢酸CH3COOHとNaOHの反応では、CH3COONaが生成される。
CH3COONaは、水溶液中ではCH3COO-とNa+に電離している。酢酸は元々弱酸であるため、電離度が低く、イオンの状態でいるよりはH2Oと反応してCH3COOHの状態でいた方が居心地が良い(加水分解)。そのため、水と反応して、一部がCH3COOHに戻る。
その結果、水溶液中にOH-の割合が若干増え、水溶液は塩基性となる。
強酸と弱塩基の塩
上記の反応とは逆に、塩基由来のイオンが水と反応する。その結果、水溶液中にH+が増え、水溶液は酸性になる。
強酸と強塩基の塩
水との反応は起こらない。そのため水溶液は中性となる。
弱酸と弱塩基の塩
酸由来のイオンと、塩基由来のイオンが水と反応する。H+、OH-どちらも増えるため水溶液は中性となる。
加水分解定数Kh
電離した状態の塩と、加水分解された塩は平衡状態にあるため、平衡定数を求めることができる。
この際、水は平衡定数を求める式には含めない。純粋1Lを1000gと考えた場合、水分子量は18のため、1Lは55.5mol/Lとなり、非常に高い濃度となる。希薄な水溶液な場合もほぼ同様の濃度と考えると、加水分解に使用される水分子の増減はほぼ無視できると考えて良い。そのため、加水分解定数Khにおいては、[H2O]は定数として扱い、式には含めない。
また、上記の式の分母分子に[H+]を掛けると次のようになる。
オレンジ色の部分は酸の電離定数Kaの逆数である。また、青色の部分は水のイオン積Kwである。よって、次のように変換できる。
加水分解定数とイオン濃度
加水分解定数Khと平衡前の塩の濃度cからイオン濃度を求めることができる。求める方法は電離平衡の時と変わらない。
緩衝液と緩衝作用
緩衝液とは
少量の酸や塩基を加えた時に、その影響を緩和し、pHが一定に保たれるような働きを持つ水溶液を緩衝液と呼ぶ。また、緩衝液が持つそのような働きを緩衝作用と呼ぶ。
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緩衝液の例
一般的に、弱酸とその塩の水溶液、弱塩基とその塩の水溶液は緩衝液として働く。具体例と共に見てみよう。
酢酸と酢酸ナトリウムの混合溶液
酢酸と酢酸ナトリウムの水溶液にはCH3COOH(酢酸由来)と、CH3COO–(酢酸ナトリウム由来)が多量に含まれている。
酸を加えると、次の反応が起こり、H+が増加しない。この反応は酢酸は弱酸であるため、H+を加えることによって、平衡のバランスが右へと移行することによって起こる。
CH3COO– + H+ → CH3COOH
また、塩基を加えると次の反応が起こり、OH–が増加しない。この反応は単純に中和反応である。
CH3COOH + OH- → CH3COO– + H2O
高濃度の強酸・強塩基は、酸や塩基を加えてもあまりpHは変化しないが、緩衝液とは言わない。これらの水溶液は水で十分に希釈すれば、pHは低下するのである。しかし、pH = 4.7の酢酸ー酢酸ナトリウムの緩衝溶液は、[CH3COOH]/[CH3COO–]の比が変わらないため、10倍に希釈してもpHはほとんど変化しない。
緩衝液の[H+]の求め方
c[mol/L]の弱酸と、c'[mol/L]の塩を含む緩衝液について、CH3COOHとCH3COONaを例に考えてみよう。これらの混合水溶液には電離平衡として次の式が成り立っている。
CH3COOH ⇔ CH3COO– + H+
一般的に、水溶液中にいかなる分子が混在していても、弱酸とそのイオンが少しでも共存していれば、電離平衡が存在している。
始めのCH3COOHの濃度をc、CH3COO–の濃度をc’とすると、平衡時の濃度は次のようになる。
CH3COOH | CH3COO– | H+ | |
始め | c | c’ | – |
平衡時 | c – x | c’ + x | x |
弱酸の電離平衡は次の式で求めるられる。
よって、H+の濃度は次のようになる。なお、この時、xはc、c’と比べて非常に小さな値のため、c – x = c、c’ + x = c’とみなす。
Ka = c / c’ [H+]なので、式を変形すると次のようになる。
つまり、[H+]= Ka×(弱酸の濃度 / 塩の濃度) である。
緩衝液の[OH-]の求め方
続いてNH3とNH4Clの混合水溶液の緩衝液の[OH–]を求めてみよう。
始めのNH3の濃度をc、NH4+の濃度をc’とすると、平衡時の濃度は次のようになる。
NH3 | NH4+ | OH– | |
始め | c | c’ | – |
平衡時 | c – x | c’ + x | x |
弱酸の時と同様に、弱塩基の平衡定数を求めると次のようになる。なお、この時、xはc、c’と比べて非常に小さな値のため、c – x = c、c’ + x = c’とみなす。
よって、OH–の濃度は次のようになる。
つまり、[OH–]= Kb×(弱塩基の濃度 / 塩の濃度) である。
溶解平衡
溶解平衡とは
結晶の存在する飽和溶液では、溶解する速さと結晶として析出する速さが等しい。そのため、見かけ上は溶解も析出も起こっていないように見える。この状態を溶解平衡と呼ぶ。
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共通イオン効果
溶解平衡状態の時は、溶解平衡に関連するイオン(これを共通イオンと呼ぶ)を加えてやると平衡移動が起こる。これを共通イオン効果と呼ぶ。
例えば、NaClの飽和水溶液にHClを加えると、Clが共通イオンであるため、次の平衡の式が左向きに移動し、その結果、NaClの結晶が析出する。
NaCl(固)⇔ Na+ + Cl–
溶解度積
難溶性の塩AmBnが溶解平衡の状態にあるとき、その濃度の積が定数(Ksp)になる。これを溶解度積と呼び、その値は温度に依存する(溶解度は温度によって変化するため)。
Ksp = [An+]m[Bm-]n = 一定
例えば、クロム酸銀の溶解平衡は次のような溶解平衡に達する。
Ag2CrO4(固)⇔ 2Ag+ + CrO42-
溶解度積は次のようになる。なお、単位についてはその物質によって変化するため、その都度求める。
Ksp = [Ag+]2 [CrO42-] (mol/L)3
溶解度積と沈殿形成
難溶性の塩を構成するイオンを含む水溶液を混ぜた時に沈殿が形成するかどうかは、溶解度積から求めることができる。
例えば、AgClの水溶液を例として考えてみよう。AgClの溶解積は8.1×10-11(mol/L)2である。Ag+とCl–を含む次の2つの溶液を混ぜてみる。
- 0.10mol/L AgNO3 0.10L
- 0.10mol/L NaCl 0.20mL(0.00020L)
①[Ag+]を求める
Agの物質量は0.1mol/L×0.1Lである。水溶液は2つ合わせて、0.1002Lなので濃度は次のようになる。なお、0.0002Lは0.1Lに比べて十分に小さいため、0.10002L = 0.10Lとして計算してよい。
[Ag+] = 0.10mol×0.1L / 0.10002L = 0.10[mol/L]
②[Cl–]を求める。
Agの時と同様に、Cl-の濃度は次の式で求められる。
[Cl–] = 0.10mol×0.0002L / 0.10002L = 2.0×10-4 [mol/L]
③イオン濃度の積を溶解度積と比較する
問題文よりKsp=8.1×10-11なので、次のようになる。
[Ag+][Cl-] = 2.0 × 10-5 > Ksp = 8.1×10-11
Kspよりも溶解度積の方が大きいのでAgClの沈殿が生じる。なお、この沈殿は溶解度積がKspの値になるまで起こる。
定数まとめKc、Kp、Kw、Ka、Kb、Kh
平衡定数とは
平衡定数Kとは、化学反応の平衡状態を、物質の存在比で表したものである。aA + bB ⇔ cC + dDが成り立つ場合、平衡定数Kは下の式で求められる([A]は物質Aのモル濃度を示す)。温度一定の平衡状態においてKは常に一定の値を示す。
濃度平衡定数Kc
ある平衡状態において、濃度において成立する関係である。濃度平衡定数とも、単に平衡定数とも呼ぶ。下の式はH2 + I2 ⇔ 2HIの平衡定数を示している。
圧平衡定数Kp
濃度平衡定数を、気体の状態方程式を用いて変換した式である。Pには、各気体の分圧の値が入る。
水のイオン積
水溶液中において、水が水素イオンと水酸化物イオンに電離する反応の平衡である。[H2O]は水素イオン・水酸化物イオンに比べて大きいため、定数と見なす。
弱酸・弱塩基の電離定数
弱酸・弱塩基の電離によって生じたイオンと、電離していない弱酸・弱塩基との間で成立する平衡である。電離度をαとすると、電離定数から水素イオン濃度を求めることができる。下の式はアンモニアの電離平衡を示しているが、[H2O]は殆ど変化しないために式に含めない。
加水分解定数
弱酸・弱塩基のイオンが水と反応することによって生じる酸・塩基との間で成立する平衡である。加水分解定数は水のイオン積 / 弱酸(弱塩基)の電離定数で求めることができる。また、水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度も加水分解定数から求めることができる。
上記の式の分母分子に[H+]を掛けると次のようになる。
オレンジ色の部分は酸の電離定数Kaの逆数である。また、青色の部分は水のイオン積Kwである。よって、次のように変換できる。
まとめ
様々な平衡定数があるが、基本的に質量作用保存の法則の応用であるため難しく考える必要はない。
混乱しやすいのは、その反応系で殆ど濃度が変化しない物質(例えば加水分解に使われる水)は定数とみなしたり、電離度αなどは1よりも非常に小さい数として1 – α = 1とみなす点にある。
なぜ1 – α(電離度) = 1なのか
実際に1 – α = 1とせずに計算してみるとどれだけの差が生じるのだろうか。例えば、0.030(mol/L)の酢酸の電離度を0.030として電離定数を求めてみよう。
Ka = (cα)2 / c(1-α) = 2.78 × 10-5 = 2.8 × 10-5
Ka = cα2 = 2.7 × 10-5
下一桁が変化したが、これを極僅かな差と見るか、大きな差と見るかが重要である。通常の化学の量的関係ならば「大きさ差」として処理するだろうが、平衡においては極僅かな差として処理する。そのため、1 – α = 1と見なして良いのである。
弱酸・弱塩基の電離度は、濃度が低くなればなるほど増加することが知られている。電離度が大きくなりすぎると、1 – α = 1とは見なせなくなり、計算式に組み込まなければならない。