RHEL 9におけるCrypto Policiesの詳細設定ガイド
RHEL(Red Hat Enterprise Linux)9では、システム全体で一貫した暗号化設定を管理するための「Crypto Policies」という新たなフレームワークが提供されています。この機能により、セキュリティ要件を満たしつつ、システムの設定を簡単に管理できます。本記事では、Crypto Policiesの概要、各ポリシーの設定方法、実際の運用方法、RHEL 9特有の改善点などについて詳しく解説します。
Crypto Policiesの概要
Crypto Policiesの目的
Crypto Policiesは、システム全体で使用される暗号化アルゴリズムやプロトコル、鍵長を一貫して管理するための仕組みです。このポリシーにより、以下の利点を実現できます:
- 一貫性の確保: すべての暗号化ツールやサービスに共通の設定を適用できるため、セキュリティギャップを防ぎます。
- 管理の簡素化: システム全体で暗号化ポリシーを簡単に設定・変更でき、個別に設定を変更する手間が省けます。
- セキュリティの強化: 古い暗号化アルゴリズムや弱いプロトコル(例: RC4やMD5)を無効化することにより、セキュリティリスクを軽減します。
Crypto Policiesは、主に次のライブラリやツールに影響を与えます
- OpenSSL
- OpenSSH
- GnuTLS
- libssh
- OpenJDK
- curl
- SFTPなど
RHEL 9における主要なCrypto Policy
RHEL 9では、システム全体に適用できる暗号化ポリシーがいくつか提供されています。以下のポリシーを選択してシステムのセキュリティレベルを調整できます。
1. DEFAULT
- 概要: 一般的な用途に適したバランス型のポリシーです。セキュリティと互換性のバランスを取るため、古い暗号アルゴリズムやプロトコルは無効化されています。
- 特徴:
- 弱い暗号(例: RC4、MD5)は無効。
- TLS 1.0およびTLS 1.1は無効化され、TLS 1.2以上が利用されます。
- 安全性が確保されつつ、ほとんどのアプリケーションと互換性があります。
- 使用例: 多くの企業システムや標準的なセキュリティ要件が求められる環境で使用されます。
2. LEGACY
- 概要: 古いシステムや互換性を必要とする場合に使用します。古い暗号やプロトコルが許容されるため、セキュリティが低い可能性があります。
- 特徴:
- 古い暗号化方式(例: DES、RC4)をサポート。
- 互換性が必要な場合に使用。
- 使用例: 古いクライアントや古いアプリケーションとの互換性を保つ必要がある場合。
3. FUTURE
- 概要: 高度なセキュリティを重視する環境に適したポリシーです。最新の暗号化アルゴリズムを使用し、将来的なセキュリティ要求に備えます。
- 特徴:
- 強力な暗号化アルゴリズムのみを使用。
- 一部の古いシステムやアプリケーションは互換性に問題が生じる可能性があります。
- 使用例: セキュリティが最優先される環境(例: 金融機関や政府機関)で使用されます。
4. FIPS
- 概要: 米国連邦情報処理標準(FIPS)に準拠したポリシーで、認定された暗号化アルゴリズムのみを使用します。FIPS 140-2またはFIPS 140-3準拠が求められる環境向けです。
- 特徴:
- FIPS認定の暗号化モジュールのみを使用。
- セキュリティが非常に厳格です。
- 使用例: 政府機関や軍事機関など、FIPS準拠が必要な環境。
Crypto Policiesの設定方法
1. 現在のポリシーの確認
現在のシステムに適用されているCrypto Policyを確認するには、次のコマンドを使用します:
update-crypto-policies --show
出力例:
DEFAULT
2. ポリシーの変更
Crypto Policyを変更するには、以下のコマンドを使用します
sudo update-crypto-policies --set <POLICY_NAME>
例: FUTUREポリシーに変更する場合
sudo update-crypto-policies --set FUTURE
変更後、システム全体に即座に反映されますが、一部のサービス(OpenSSH、Apacheなど)では再起動が必要です。
3. カスタムポリシーの作成
RHEL 9では、独自のカスタムCrypto Policyを作成することも可能です。カスタムポリシーを作成する手順は以下の通りです。
カスタムモジュールの作成
cd /etc/crypto-policies/policies/modules/
ディレクトリに新しいモジュールを作成します。
sudo nano /etc/crypto-policies/policies/modules/custom-module
カスタムルールの記述: 作成したモジュールに暗号化アルゴリズムやプロトコルの設定を記述します。 例
[tls] cipher = -AES128 min-tls = 1.2
カスタムポリシーの有効化: 新しいポリシーを適用するには、次のコマンドを実行します
sudo update-crypto-policies --set CUSTOM:custom-module
4. 設定の確認
設定変更後は、動作確認を行い、設定が適切に反映されたか確認します。
暗号スイートの確認: OpenSSLを使用して有効な暗号スイートを確認できます
openssl ciphers -v | grep -E 'TLS_AES|TLS_CHACHA'
SSH接続の確認: SSH接続時に使用される暗号スイートを確認できます
ssh -vvv user@hostname
RHEL 9での新機能と改善点
RHEL 9では、Crypto Policiesがさらに強化され、セキュリティが一層強化されました。以下はRHEL 9特有の改善点です:
1. 強化されたデフォルトポリシー
RHEL 9では、DEFAULT
ポリシーがより強化され、セキュリティ基準が向上しました。これにより、TLS 1.2以降のプロトコルのみが使用され、古い暗号(例: RC4)は無効化されます。
2. FIPSモードの簡素化
RHEL 9では、FIPS準拠を有効にする手順が簡素化されました。/etc/default/grub
にfips=1
を追加するだけで、FIPSモードが有効になります。
注意点とベストプラクティス
- 互換性の確認: 新しいポリシーに変更する前に、システムで使用されているアプリケーションやクライアントが新しいポリシーに対応しているか確認してください。
- カスタムポリシーの慎重な使用: カスタムポリシーを使用する場合は、事前にテスト環境で十分に検証し、誤った設定によるサービス停止を防ぎましょう。
まとめ
RHEL 9のCrypto Policiesは、システム全体で暗号化設定を一元管理できる強力なツールです。適切なポリシーを選択し、定期的に設定を確認することで、セキュリティを強化し、運用上のリスクを減らすことができます。ポリシー変更を行う際は、互換性の確認や影響範囲の把握を十分に行い、実運用での安定性を確保しましょう。
参考文献
- Red Hat Enterprise Linux 9 Documentation
RHEL 9のアップグレードに関するドキュメント、システム全体の暗号化ポリシー適用方法については、公式のRed Hatドキュメントを参照してください。以下のリンクで詳細な手順やポリシー設定の詳細が説明されています。 - Red Hat Customer Portal
公式のサポートや質問への回答を探すためには、Red Hat Customer Portalが有用です。 - RHEL 9 Release Notes
RHEL 9のリリースノートにおいて、Crypto Policiesに関する新機能や改善点が詳述されています。